倍速視聴とは何か – コンテンツとの付き合い方を考える

世はコンテンツ消費時代。
YouTubeやAmazonプライム、NETFLIXやTikTokなど、動画に限っても視聴できるコンテンツ数は溢れかえり、低料金で多くのコンテンツに触れられる喜びと同時に、現代人の悩みの種ともなっています。

もっと観たい。もっと知りたい。
だけど僕たちには、時間が足りない

そこで度々話題に上ってくるのが、再生速度を1.5倍や2倍に上げて視聴する「倍速視聴」や、不要な部分をスキップする「飛ばし視聴」。

僕自身、YouTubeのデフォルト再生速度は1.5倍速、チャンネルによっては2倍速で再生しています。ただし現在では全てのコンテンツを同じように視聴しているわけではなく、いくつかの視聴方法を使い分けるようになりました。

  1. 観ないもの
  2. 倍速、飛ばし視聴するもの (85%)
  3. 等倍速で観るもの (10%)
  4. 倍速で「ゆっくり」観るもの (5%)

今回は「倍速視聴とは何なのか」を足がかりに、増えすぎたコンテンツとの付き合い方について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

僕の倍速視聴ストーリー

冒頭では4つの視聴方法を使い分けているとお伝えしましたが、最後の4は元々ありませんでした。倍速で「ゆっくり」観るというのは、必要にかられて後から追加された視聴方法です。
ではなぜこの4を追加することになったのか。まずはそこにつながるストーリーからお話しすることにしましょう。

観なくなったもの

僕はテレビでニュースやワイドショーを観ることはほぼありません。
いつから、というのもかなり明確に覚えていて、2018年、とあるアメフトの試合で起きた反則タックルの事件がきっかけです。 (ご存知無い方は検索してみてください)

この事件は後に監督や理事長の辞任にまで発展するなど、かなり大きなニュースとして日本中で話題になりました。当然お昼のワイドショーなんかは連日この話題で持ちきりだったわけですが、ある時ふと思ったんです。

  • これって、いつもと同じパターンだよな……

ある事件や不祥事をきっかけに、人間関係や組織の構造、既存のシステムなどへの不信感を煽る。最後には決まって「説明責任を果たせ」。テレビのこういう流れって、もう先の展開が読めちゃうんですよね。2022年の例を挙げれば『自民党と統一教会』も同様の流れです。
さらにこうも思いました。

  • これって、自分には全く関係無いよな……

関係無いどころか興味も無かったんですね。
ただただテレビから流れてくるものを観る。笑えるわけでもなければ、仕事に役立つわけでもない。そんなコンテンツに、夜のニュースも含めれば1日2時間程度、1週間で10時間以上を費やしていたわけです。

さすがにアホらしくなって、その日を境にワイドショーは一切観なくなりました。ニュースも同じような理由でテレビで観ることは無くなり、現在ではGoogleニュースなどのテキストでざっと目を通す程度です。

倍速視聴していたもの

「もっと興味のあることに時間を使おう」
そう考えた僕はYouTubeにシフトし、ノウハウ系や学習系といったコンテンツを漁り始めます。当時よく観ていたのが「ルアーフィッシング」や「英語学習」に関する動画。

僕は釣りが好きで、特に疑似餌を動かしてスズキやタチウオを釣るルアーフィッシングにハマっていました。
しかしなかなか思うような成果が出ない。もっと大きな獲物を数多く仕留めるにはどうすればいいのか。その答えを探して日夜研究していたんですね。
英語学習も同様で、英語のドキュメントをスラスラ読めるようになるには何をどう読むべきなのか、英語が話せるようになるにはどんな学習方法が近道なのか。そういったノウハウを必死で探し求めていました。

で、こういったノウハウ系動画、どれくらいあると思います?

想像に難くないと思いますが、クソほどあるんですよ。ルアーと言っても糸の太さから竿やリールの選び方、ターゲットによる釣り方の違い……テーマは無限にあります。
さらにYouTubeというのは良くできていて、動画を1本見た後はその動画に関連した「おすすめ動画」がサジェストされる。次から次へと動画を渡り歩く導線がしっかり示されるわけです。どうなるかと言えば、

  • あれもこれも知りたいのに、時間が全然足りない

必然、よりコンテンツを多く視聴できる方法、すなわち倍速視聴にたどり着くわけですが、このお話はもう少し後で掘り下げるとしましょう。

等倍速で観ているもの

倍速視聴が当たり前になったとはいえ、等倍速で視聴するコンテンツは残っていました。これは現在でもそうですが、僕は映画やドラマ、アニメなどの映像作品は等倍速で視聴します。
海外ドラマの「スーツ」や「プリズン・ブレイク」に始まり、最近では「SPY×FAMILY」や「リコリス・リコイル」などなど、日本のアニメも頻繁に観るようになりましたが、全て等倍速。

プライムビデオが倍速視聴に対応していない? Webブラウザで視聴すれば、Chrome拡張機能でどうとでもなります。

https://chrome.google.com/webstore/detail/video-speed-controller/nffaoalbilbmmfgbnbgppjihopabppdk

つまり「できるけどしてない」んですね。理由は簡単で、それが娯楽だからです。娯楽には効率もタイパ (タイムパフォーマンス) も関係無いと個人的には考えているし、作品を最も楽しめるのが等倍速だと思っているから等倍速で視聴する。それだけです。

興味関心によって分かれていた視聴スタイル

ここで一旦まとめておくと、僕はこのように「興味関心」によって視聴スタイルを分けていたということになります。

ここには学びも趣味も娯楽も同じラインに含まれている。要するに、ある動画は「学習のため」「知識を得るため」に観ているという意識はどこかにあるんだけれども、「観る」という行為自体は娯楽と同じだったということです。

ここに大きな問題がある。それに気付いたのは、YouTubeを中心に視聴し始めてから2年ほど経過したある日のことでした。

「観るだけ」の問題点

当時の僕はどちらかと言えば効率重視の人間で、学びとして観る動画も当然のごとく倍速視聴。

  • 倍速で視聴すれば、より多くの情報に効率良く触れられる
  • 多くの情報に触れれば、その分知識が増える
  • 知識が増えれば学習がより効率化し、成長できる

理由としてはこんなところです。単純な論理ですね。

事実、多くの情報に触れられるというのはYouTubeやその他SNSがもたらした大きなメリットです。
「ルアーで魚を釣る方法」はその気になれば誰でも検索できるし、「話すための英語学習法」も今では広く知られています。モンスターハンターで「初心者におすすめの武器種」や「使いやすいテンプレ装備」は? 調べるのに5分もかからないはずです。

あなたは昨日得た学びを人に説明できるか?

ではこれはどうでしょう。

  • あなたが昨日視聴した動画やテキストで得た「学び」を、わかりやすく説明してください

2年ほど前のある日、僕は自分自身に同じ質問をぶつけてみました。結果、何も出てこなかったんですね。

これには愕然としました。何時間も費やして得たはずの情報が、次の日にはどこかに霧散してしまう。観たという記憶を引き出すことはできても、そこから何を得たかを説明できない。できたとしても、費やした時間とは到底釣り合わない「薄っぺらな要約」や「浅い感想」しか出てこない。

これは本当に「学び」と言えるのだろうか? もしかして僕は、膨大な時間を無駄にしていただけなのではないか?

コンテンツの消費は「速読」と同じである

僕が前日の学びを説明できなかった理由は明確で、「観るだけ」だったからです。

もしかすると僕だけかもしれませんが、倍速視聴は視聴スピードが上がるだけに、「観る」で終わってしまう傾向が強くなります。終わってしまうというより、次の動画、またその次の動画へ移行しやすいよう仕組まれているんです。

これはコンテンツを消費している状態であり、本の速読と同じようなもの。
ここで言う速読とは「フォトリーディング」のような特殊技能ではなく、本の内容を軽くチェックして、読まない本を仕分けるために行う作業を言います。

  • 表紙を眺めて、面白そうな本を手に取る
  • 目次をチェックして、それがどんな本かを知る
  • 気になる見出しを開き、1〜2分でチェックする

これを数冊続けて行うのが超速読の大まかな流れです。現在ではこんな方法でチェックする方も多いでしょう。

  • Amazonのレビューを読んで他人の評価を知る
  • 要約動画を視聴して本の要点を知る

速読とは何かを「得る」ためにするものではありません。それがどんな本かを大雑把に「知る」ことで読まない本をふるいにかけ、読まない本のために使う時間を圧縮するためのものです。だからこの時点では、本の内容について深く考えることもなければ、メモをとることもありません。

僕が学びと称して行っていた動画視聴もこれと同じで、動画を1本視聴し終えた後に何かを考えるなんてことはほぼありませんでした。だって次に観るべき動画がいくつも控えているから。

だから視聴前に問いかける

コンテンツを消費している限り、本当の意味で何かを学ぶことはできない。そう考えた僕は、視聴前にまず「問いかける」ところからはじめました。そのコンテンツは、

  • 娯楽として楽しむために観るのか?
  • 速読としてチェックする、あるいはただ知るために観るのか?
  • 自分の知識として残したいのか?

図にするとこんな感じです。

(動画を観るたびにこのようなフローチャートを思い描いているわけではありません。ただ視聴前に少し「意識」するだけです)

娯楽動画は普通に観る

それが娯楽であれば通常の速度、YouTubeなら1.5倍速で普通に再生します。好きなゲーム実況者のチャンネルやペット系、笑える企画系の動画ですね。
チャンネルによっては2倍速に速めたり、1.25倍速に落としたりという場合もありますが、基本的には好きな速度で再生すればそれで良いと考えています。

等倍速で観る映画やアニメと何が違うのかという指摘には、単純に「慣れと間の重要性」と答えておきましょう。

速読対象は飛ばし視聴

  • 知りたいテーマが明確で、それに対する答えがわかれば良い
  • チャンネルには興味無いけど、サムネイルやタイトルがちょっと気になる

こういった場合は2つ目の視聴スタイルをとります。再生速度は同様ですが、僕は動画1本丸々再生するなんてことはしません。ガンガンに飛ばします
たとえばこの動画が気になったとしましょう。

タイトルは「ホホジロザメってなんでどこの水族館にもいないの?」です。しかしこういった動画でタイトルに対する答えがいきなり出てくるなんてことはまれで、大抵こういった部分から解説が始まります。

  • 導入部分
  • サメとは?
    • 軟骨魚類である
    • 嗅覚が恐ろしく高性能
    • 知能が高く、社会性がある
  • ホホジロザメとは?
    • シャチに次ぐ強さ
    • 生息域は広範囲に広がっている
    • オットセイやアザラシを食べている

ホホジロザメが水族館にいない理由まで6分50秒。
これはエンターテイメントとして考えれば決して間違ってはいないし、動画の構成としては正解です。しかし僕は「ホホジロザメが水族館にいない理由」が知りたいだけで、ホホジロザメについて詳しく知りたいわけではありません。この場合、その他の部分はガンガンに飛ばします。

YouTubeなら概要欄に目次が記載されていれば、そのタイムスタンプをクリックすることで目的の場所までジャンプできるし、目次が無い場合でもキーボードのLで10秒や5秒といった短時間スキップが可能です。

この動画全体の尺は17分以上ありますが、「ホホジロザメが水族館にいない3つの理由」は2分でわかります。

学習のために観るならゆっくり倍速

一方で学習の意図がある場合、同じ動画でもこれとは違った視聴スタイルが必要です。あなたがサメやホホジロザメ、海洋生物について詳しく知りたい、知識として残したいと思うなら、ぜひメモをとりながら視聴してみてください。
アナログでもデジタルでもかまいません。とにかくテキストとして残すことです。メモのとり方についてはここではあまり詳しく解説できませんが、はじめは動画の要点や理解したいポイントを箇条書きにしてみることをおすすめします。

書くという行為は当然ながら時間がかかるので、動画の速さには全く追いつけません。だからある時点で動画を止める、あるいは何秒か戻ることを強いられます。倍速で「ゆっくり」視聴するというわけです。
(一応付け加えておきますが、動画の内容全てをメモるわけではありません。なので動画の尺より早く終わることもあり得ます)

メモを書き終えたら、そのメモの中から特に気になるキーワードが無いか探してみます。最もわかりやすいのは、疑問が生まれる単語やフレーズです。

  • サメの他にはどんな軟骨魚類がいるのか?
  • カスザメってどんなサメ?
  • 体重に対する脳の重さは知能に直結するのか?

動画では語られていない、あなたの中から湧き出た疑問。それが次に観るべきコンテンツを指し示す印となるでしょう。

メモの威力は、やってみなければわからない

このようにメモをとることで、その情報はあなたの中に必ず残ります。しかしその威力は一度体感してみないとわかりません。
もしあなたが1日10本のYouTube動画を観ているなら、試しにそのうちの1本だけ「ゆっくり」時間をとって視聴してみてください。そして次の日、先ほどの問いをご自身に投げかけてみてください。

  • 昨日観た動画やテキストで得た「学び」は何か?

賭けてもいいですが、真っ先に思い浮かぶのはメモをとった動画のはずです。

世はコンテンツ消費時代。あなたが触れる情報は多くの場合、電車の車窓から見る景色のようにとめどなく流れていき、後にはほとんど何も残らない。
しかしそれは当然のこと。全てを覚えて活用するなんてことは不可能だし、すべきではありません。だからこそ、そこに何か光るものを発見できたなら、一度電車から降りてじっくり眺めてみることです。

倍速視聴はより良い景色に出会うための、1つの手段に過ぎません。溢れ返るコンテンツとの付き合い方は、あなた次第です。

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