アトミック・リーディング – 読書とは読み、書くことである

あなたは一日にどれだけの数のWeb記事を読まれるでしょうか。
50記事? 100記事?

一か月の読書量は? 3冊? 10冊?
100冊読むという方もいるでしょう。

では一週間以上前に読んだ記事や本で、人におすすめできるものは?
その記事や本について、他人に「ぜひ読んでみたい」と思わせる説明ができるでしょうか。

「説明なんてできなくても困らないでしょ」と思われるかもしれません。しかし実は、これが非常に重要な意味を持っているんです。

果たして自分のこの状態は「本を読んだ」と言っていいんだろうか?
(第1部)

あなたはどうでしょう。
その本、確かに「読んだ」と言っていいんでしょうか?

今回は五藤隆介著「アトミック・リーディング」について語ります。


アトミック・リーディング: 読むことと書くことから考える読書術

概念を変えれば、気持ちが変わる

本書ではまず、「読書」とは「本に書かれた文字を黙読すること」だけではなく、「読んだり書いたり」する行為だと考えます。
(はじめに)

だから読書メモなんて、むしろ書いて当然でしょ? と言わんばかりに、読書という概念を早速ぶち壊してくる姿勢。清々しさすら感じる。

さて本書「アトミック・リーディング」とはどんな本なのか。その論理はごくシンプルです。

  • 面白い本を読んで「面白かった」しか感想が出てこない。それってすごくもったいないと思わない?
  • だから本について語ってみよう! それってすごく楽しいし、得られるものも多いんだ!
  • 語るために必要なのが読書メモさ。みんなも書いてみようよ!
  • そんなの面倒だって? じゃあまずは、読書と読書メモに対する考え方を変えようじゃないか!

要約すると4行で終わる話を延々語るのが第1部。 (言い方)

速読とか多読とかそういう方向性ではなく、どちらかと言えば精読・熟読寄りの立場でありながら、「読む」より「書く」に重点を置いた本ですね。だから細かな読みのテクニックとか、そういう話を期待していると肩透かしを喰う可能性もあります。
読みに関する話で新しさや意外性を感じる箇所があるとすれば「並行読書」ではないでしょうか。

並行読書とは?

並行読書と聞いて僕がイメージしたのは「同ジャンルの本を複数続けて読む」読書法。
これは既存の読書術本にも書かれている手法で、学習に主眼を置いた読書では割とメジャーかと思います。著者によって同じ出来事でも解釈が違っていたり、説明やアプローチの仕方が異なるからです。

ところがアトミック・リーディングの「並行読書」は、これとは全く別。

アトミック・読書術では「並行読書」をオススメしています。
一冊ずつ順番に本を読んで、読み終えたら次の本に進み、またそれを読み終えたら次の本を読み始める、という読み方を「しません」
私の場合、だいたい常に四〜五冊くらいの「読む本の候補」があり、それを「気分に応じて選び」ながら複数冊を並行して読み進めていきます。
(第1部)

え、全く関係無い本を同時に読むの!? なんで?

その中でも一番大きな理由は、一冊の本を読んでいる「期間」が長くなる、ということです。ここでは「時間」ではなく「期間」が長いことが重要です。
熱中して一気見したドラマ、一気読みした漫画はあまり記憶に残っていないが、毎週楽しみに見ていたアニメや漫画などは詳細に覚えている。そんな経験はないでしょうか?
(第1部)

なるほど。つまり一冊単体で読むより、いくつかの本を並行して同時に読んだ方が、読み終わるまでの期間が長くなる。そこが良いんだと。

これはちょっと予想外でした。確かにアニメやドラマは複数のエピソードを一気見 (ビンジウォッチング) すると、ひとつひとつ間隔を空けて視聴したときに比べて満足度が上がりにくいというのは、どこかで見たような気がします。
(全然定かではありません。ちなみに僕は最近『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』を一気見しましたが、ラストでは尋常じゃないほど泣けました。超満足しています)

どのタイミングで読む本を切り替えるのかとか、そもそも切り替える気分になるかといった問題はあるかもしれませんが、全く考えもしなかった新たな視点や価値観に触れられるところがこの本の良いところですね。

読書メモをどう書くか

読書メモの第一歩は、読んだ本リストを作ることです。
(中略)
読んだ本リストを一ヶ所にまとめる理由は、そうすることで自然に以前読んだ本も振り返ることができるから。
(第2部)

第2部は読書メモをどう書くか、そしてどう保存するかについて書かれています。ごりゅごさんをご存知の方であればすぐにイメージできるかと思いますが、「振り返り」も重要なテーマのひとつですね。

  • ステップ1: 場所を決めて、そこに読んだ本リストを作る
  • ステップ1.5: リストに新しい本を追加する際、以前読んだ本のことを思い出してみる
  • ステップ2: 面白いと思った内容を自分の言葉でまとめる

「ちょっとステップ2までの歩幅、デカくね?」とは思いますが、

そもそも読書メモの方法に正解はありません。
(第2部)

とも書かれているので、僕からひとつ提案しましょう。ステップ1.1、「一行読書メモ」です。

読者からの提案: 一行読書メモ

読んだ本リストってのはつまり、こういうことですよね。

  • 五藤隆介「アトミック・リーディング」
  • マシュー・サイド「失敗の科学」
  • アーリック・ボーザー「Learn Better」

もしかしたら日付なんかも記入されるかもしれませんが、書いてあることだけを従順に実行したと仮定すると、こうなると思います。ここに一行だけメモを書き残してみましょう。

  • 五藤隆介「アトミック・リーディング」
    • 本を読むだけでは心に残らない。読書メモを書こう
  • マシュー・サイド「失敗の科学」
    • 人は失敗から学ぶ。大事なのは失敗を隠さず、検証して糧とすることだ
  • アーリック・ボーザー「Learn Better」
    • よりよく学ぶには、まずその学びに意味を見出すこと

かなり以前の話になりますが、僕はDynalistという箇条書きアプリで一行日記をつけていた時期があります。
その日がどんな一日だったか、一行だけ書く。これが非常に継続しやすくて、今でも何かしら文章を書く癖をつけたいと考えている人にはおすすめしたい方法です。

その一行日記の考えを読書メモに流用したのが一行読書メモ。何を書くのかと訊かれたら「何でもいい」んだけど、迷ったら「その本が全体として何を言っていたのか」を書く。そんな感じでどうでしょう。

読書メモを活かすには

まず、アトミック・リーディングではいきなり本全体を俯瞰して、何が書かれていたのか、著者はなにを言わんとしようとしたか、ということには注目しません。本一冊を読んでなにが重要かを頭の中だけで考えて要約するというのは、誰もがいきなり実践できるような簡単な方法ではないのです。
(中略)
アトミック・リーディングではまず一冊の本全体をまとめようとせず、本に書かれていた細かなこと、自分が面白いと感じた小さなことに注目します。
そして、それらの小さなことを、一つずつ読書メモとして残していきます。
(第3部)

あ、すいません。僕の提案、秒で否定されました。

というわけで第3部。ここからアトミックに深く踏み込んでいくという感じでしょうか。

  • アトミックなメモとはどういうものなのか?
  • なぜアトミックが良いのか?
  • 読書メモを振り返るとは、具体的にどういうことを指すのか?
  • 読書メモの先にあるもの

といったトピックを含み、本の中で最もボリュームが多いです。僕自身のメモを見返してみても、この第3部が全体の約半分を占める結果に。

ただ読者の皆さんの楽しみを奪ってしまうことにもなりかねないので、ここでその詳しい内容をペラペラ喋ってしまうことは控えたいと思います。
その代わりにひとつだけ、僕からひとつ補足するのであれば、この言葉をお伝えしておきましょう。

読者であるあなたは、「本について語る」ことを目指さなくてもかまわない

「本について語る」が意味するものとは

「はじめに」から第3部まで、全体を通じて何度も登場するフレーズが「本について語る」です。
だから本について語ることがこの本の目的であり、ゴールなんだというイメージを持たれる方、もしかすると多いかもしれません。で、絶対いるんですよこういう人。

「私は本について語る場を持ってるわけじゃないし、別に語りたくもない。だからこの本は私に合ってない」

これはちょっと的外れで完全な誤解というか、「本について語る」というフレーズをそのまま受け取りすぎだと思います。

「本について語る」が意味するものとは、なにも友達と喋ったりブログに書いたりツイートしたり、Podcastを配信するという行為だけを指すものではありません。その本質は、「より深い理解」です。

読書メモを残すという行為は、情報に対する理解を深める行為であり、その理解を修正し、広げ、さらに深めやすくするための形がアトミック。
理解は本について語るための前提であり、もっと言えば「本の内容を今後の人生に活用する」ための前提でもある。

同じなんです。
「語る」ことと「活用する」ことは、理解という同じ前提の上に成り立っている

「理解ならちゃんとできてる。俺はこの本の文章でわからないことなんか無い」というのも違います。
確かに文章が読めて内容がわかるというのはひとつの理解です。ただそれは「浅い理解」でしかありません。
浅い理解しか無いから心に残らず、後になって使えない。理解には段階があるということです。

より深い理解。それが具体的にどういうものなのかは……読書メモを書いてみれば自ずと見えてくるでしょう。

個人的に気になったところ

ここまで『アトミック・リーディング』の内容をかいつまんでお伝えしつつ、僕の考えも少し語ってみました。
前回同様、この本もまた高い評価を受けることでしょう。それが容易に想像できる程度には良い出来であることは確かです。

しかし「この本はとても良い本です」とか、「新しいことを知れました。ありがとうございます」とか、それだけじゃつまらん。実につまらん。
なのでここからは、個人的に気になったところを挙げていこうと思います。

その前に、ごりゅごファンの皆さんに一言。
この記事が嫌いでも、僕のことは嫌いにならないでください。
くれぐれも、よろしくお願いします。

(僕が読ませていただいたのはリリース直前のバージョンなので、リリース時には若干の変更が加えられている可能性があります)

続編なの? ホントに?

すでにブックカタリストでも語られていますが、この本、ごりゅごさんが言うには『アトミック・シンキング』の続編なんですよね。

しかし僕はあえて「続編ではない」という真逆の立場を取らせていただきます。
続編というなら、この部分は丸々不要なはずです。

ではそもそもアトミックとはなんなのか。
アトミックということばは、それ以上分割できないという意味での物質の最小単位「原子」を意味する英単語「atom」の形容詞形(atomic)をカタカナにしたものです。
(第3部)

アトミック・シンキングの読者なら全員知ってますよ。だからアトミックの定義とか、根底にある基礎的なこと (一つのことだけを書くとか、修正が前提だとか) は、改めて書かなくていいはずなんです。同じことを全く書くなとは言わないけれど、続編にしてはちょっと書きすぎでしょ。

僕がもし広報担当なら、「アトミック・リーディングは続編ですか?」という問いに対してこう答えます。

「この本は前作『アトミック・シンキング』で培った考えや手法を読書用に特化し、ブラッシュアップしたものであって、厳密には続編ではありません。前作と同じことをもう一度書いていたりもしますが、それは新規読者に向けて書いたものです。
だから新規の方も安心してお読みいただけます。この本に前提知識は必要ありません。
前作をお読みいただいた皆さんは、どうぞ両者の差異と著者の一年にわたる試行錯誤の成果をお楽しみください。あなたのアトミック・シンキングをアップデートする、良い機会にもなるかと思います」

後半までアトミック感ゼロ

そうなると気になってくるのが、ブックカタリストで倉下さんがおっしゃっていた「アトミック・リーディングとは? が後半まで出てこない」という問題です。
これは確かに気になる。続編だとしても気になる。アトミックについて早くから触れたくなかったという事情があるにせよ、あまりに遅い。

僕なら「はじめに」で一言置いておきます。たとえばこんな感じに。

本を読んで、読書メモを残し、読書メモを振り返ってようやく「本を読み終わった」と考えてみたら?
こうなると、本を読み終えるためには、読書メモを残すしかありません。
もちろんこの考え方は、読書メモが難しいという根本的な問題は、なにも解決できていません。変わるのは気分だけです。
ただその難しさは、この本のもう一つのキーワード「アトミック」によって多少は緩和できるでしょう。
(第3部冒頭から) アトミックということばは、それ以上分割できないという意味での物質の最小単位「原子」を意味する英単語「atom」の形容詞形(atomic)をカタカナにしたものです
読書メモはアトミックに書くのです。これについては第3部で詳しく取り上げます。

本書ではこのように、様々な観点から読書観を変えていき、……

序盤で何らかの細工を施しておけば、読者は「ああ……アトミックについて、今は知る必要が無いんだ」とひとまず納得してくれるはず。

ごりゅごさんはこの倉下さんの問いに対して「続編だから」とお答えになるわけですが、

  • 続編であると仮定した場合、基礎的なトピックに関する文章が多すぎる
  • 続編でないと仮定した場合、アトミックという単語が後半まで宙に浮いた状態になってしまう

修正が楽なのはどちらかといえば、「やっぱりこの本、続編じゃないっす」って言っちゃう方かなと。

続編というより別メニューに見える

僕が指摘している「続編かどうか」は、もしかしたらすごく細かいことなのかもしれません。「別にそんなのどっちでもいいじゃん」と言われればそうかもしれない。
でも僕としては、そこがどうしても気になるんですよね……縦に並べてもしっくりこないし、連続した内容としては美しさが足りない。

並びとしては、僕は横の方がハマると思います。続編というより別メニューのような感覚。

「トンカツと生姜焼き、メインの料理(本のテーマ)は違うけど、味噌汁と漬け物はどちらにも付いてきますよ」みたいな。
わかります? この感覚。

読書メモとアトミックをより身近な存在へ

逆にこの本単体で見た場合、気になる点がそんなに無いんですよね。確かに「話長いな」と感じるところはあるんだけど、まぁそこは好みの問題もあるし。

そして前作とは別メニューとして比較すると、ご自身の体験談によって読書メモやアトミックをより「身近なもの」として感じられる。ここは明らかに改善された点ではないでしょうか。言いたいこと、伝えたい要点を表現する幅が広がった感じがします。
(上から目線ですいません。でも読者ってのはそういうもんです。ごりゅごさん、諦めてください)

次回作はしっかり「続編」なのか、それとも「別メニュー」なのか。個人的には今から楽しみです。


アトミック・リーディング: 読むことと書くことから考える読書術


アトミック・シンキング: 書いて考える、ノートと思考の整理術

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