独学大全の読み方? お嬢様はアホでいらっしゃいますか?

お嬢様…お嬢様。
お目覚めですか? ええ。執事の影山でございます。本日も良いお天気でございますよ。

それはそうとお嬢様。以前ご購入されたこの本、お読みでらっしゃいますか?


独学大全――絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法

なに、ページ数が多すぎて早々に挫折?

お嬢様。起き抜けに大変失礼とは存じますが……

【独学大全】もお読みになれないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか?

仕方がありません。ならば私、こちらの本をどう読むか。少しご教授させていただきたく存じます。
ただ、お嬢様はまだお目覚めになったばかり。謎解きはモーニングの後にいたしましょう。

目標をお持ちでございますか?

ときにお嬢様、この本をなぜお読みになりたいと思われたのでございましょうか?
独学と言っても英語や料理、スポーツなどございます。多種多様な選択肢の中で、お嬢様が今最も達成したいことは?

なに、そもそも独学の方法が知りたい?

ふむ…やはりお嬢様の凡庸な考えなど、聞くだけ時間の無駄でございました。

しかしそれも結構。なぜならこの独学大全、まさにそういった方に最もおすすめの一冊と言えるからでございます。

独学大全は「英語学習のためのメソッド本」でもなければ「速読の技術本」でもございません。もっと広く『独学』をとらえ、目標達成のため、いかに継続して上質な学びを得るか。それがこの本の大きなテーマでございます。

つまりこの本、扱っている範囲がとんでもなく広いのでございます。そのため読書に慣れていない方が、最初から通して全部読もうとすると高確率で挫折してしまう。これは間違いございません。くれぐれもご注意くださいませ。

それではどうぞお嬢様、本をお開きください。モーニングはこちらのフォートナム & メイソン、『クイーン・アン』で締めといたしましょう。

序文は飛ばさずお読みください

早速ではございますがお嬢様、なにゆえそのような中途半端なページをお開きに?
ええ、確かに申し上げました。「全部読もうとすると挫折する」と。

しかし今一度確認しておきたいのですが、お嬢様は初めてこの本を読まれるのですよね?

10ページしか読んでいない? なるほど。失礼ながらお嬢様……

身の程をお知りください。

実用書であれば大抵の本には『まえがき』や『序文』がございますが、初めて読む本であるにも関わらずこの部分を読み飛ばしてしまうのは愚行、アホの所業と言わざるを得ません。
その理由は、この序文が本の全体像を示すイントロダクションであると同時に、本を読み進めるための前提知識が提示される場でもあるからでございます。

とは言え、この独学大全の序文は25ページ。序文としては少々長うございます。差し出がましいようですが、私の超要約と合わせてお読みくださいませ。

こちらが序文の超要約でございます

序文の前半数ページは「独学を成功させるために必要な知識と技術」について。こちらはお嬢様でもすんなりと読めるはずでございます。

  • 独学者に必要な知識とは何か?
    • 知識のための知識 (前提知識)
    • 何をどう学ぶかを決定する知識
    • 学習方法を点検 / 修正する知識
    • 完遂する技術
    • 自己コントロールについての技術知

問題はその次、『二重過程説』でございます。序文のほとんどはこの二重過程説を軸とした話が続きますが、こちらではそれを丸ごと、一枚の図で表現することにいたしましょう。

人間の理性であり、知識や自己コントロールを含むシステム2は、『学習 (独学) 』を支える助けとなりながら、同時に学習によって強化される。これを説明するために、この本では多くのページが割かれているのでございます。

独学を始めるポイントはまさにココなのです。つまり何かを学ぶのであれば、ただやみくもに知識を増やすよりも先に、その分野の前提知識や、継続するための技術を知る必要がある。

これが独学大全の基本的な思想であり、読み進めるための心構えなのでございます。独学についての前提知識が乏しい、あるいは継続する力が足りないと感じるのであれば、お嬢様はこの本の『対象読者』ど真ん中であると言えるでしょう。

少しばかり余談でございます

ちなみにこの二重過程説でございますが、著者である読書猿氏独自の考え方というわけではもちろんございません。それどころかこの理論、数々の書籍で同じような記述を見ることができます。

余談ではございますが、ここで他の書籍を少しだけ紹介させていただくことをお許しください。
もし万が一、独学大全の序文ではピンとこない、あるいは理解しにくいと感じたなら、このような書籍を糸口に理解を深めるのも有効な手でございましょう。

まずスタンフォードの自分を変える教室。こちらは「良い習慣を身に付け、悪い習慣から抜け出すには?」をテーマに、60万部を売り上げたベストセラーでございます。
こちらの書籍では独学大全で言うシステム2を『意志力』と呼び、本能であるシステム1とのせめぎ合いを平易な文章と図を使って解説しております。
科学的根拠や実験などに興味がある方は、こちらの方がより親しみやすいでしょう。

影響力の武器も忘れてはなりません。27カ国語に翻訳され、累計発行部数200万部を超える、言わずと知れたビジネス書界のモンスターでございます。
人間の無意識に訴えかけるビジネス戦略6種は、本能であるシステム1がいかに『高速』で『強力』であるかをご理解いただくのに十分でございましょう。果たして、そこから逃れる方策はあるのでしょうか?
社会心理学的な見地からこの理論をより深く学習できる、まさに名著でございます。

目次は熟読が鉄則でございます

序文はお読みになりましたか? お嬢様。ああ…先ほどの話は独り言でございますので、お気になさらず。
さて次に参りましょう。目次でございます。

なに、目次なんか読まない? 読んだこともない、と。

まさかとは思いますが、お嬢様……

お嬢様の目は節穴でございますか?

いま少しばかり脳みそをご使用になられてはいかがですか?

目次を読まないとは…正直申し上げて私「ウ~ケ~る~」でございます。

一般的な実用書の場合

よろしいですかお嬢様。実用書の目次を読まずして本文を読むということは、地図を持たずに森を歩くのと同じ。それはもう自殺行為と言えましょう。

一般的な実用書なら、まず目次を熟読して全体の構成をつかみ、読みたいと感じた部分に印を付ける。これによってまず「読まない部分」をふるいにかけるのでございます。

この作業を事前にこなしておけば、本を最初から最後まで通して読むなどという非効率的なことをせずとも済むわけで、特に実用書では必須のテクニックでございます。

独学大全の場合

しかしこれは一般的な実用書の話。独学大全はこの工程を、目次の前に置かれた『本書の構成と取説』によって強力にサポートしてくれております。その一部を抜粋してお読みいたしましょう。

8 これから独学に取り組もうという人には、本書を最初から読むことを勧める。本書は概ね効果の高いものから順に配列されている。まず始めること、そして続けることが最も重要である。このための技法が第1部に集められている。

この後もこのように続きます。

9 独学者は何を学ぶかはもちろん、またどんな資料・教材を使って学ぶかを、自分で決めるものである。第2部はこのための技法と情報がまとめられている。

10 いわゆる「勉強のやり方」については第3部にまとめられている。(後略)

11 第3部までで紹介した技法をどう組み合わせて実践するかを (第4部で) 例示する。 (後略)

ご理解いただけましたでしょうか?
お嬢様のような「独学を始めたいけどよく分からない」「3日坊主でなかなか続かない」という、いわゆる独学初心者の方がまず読むべきは、ここでございます。

逆に言えばお嬢様。あなたが独学を「スタート」し、多少の期間「継続」できるようになるまでは、第1部以外は読まなくても良いとも言えましょう。

一般的な実用書では読者がすべきである『本の地図を作る』という作業を、先に著者が済ませてくれているのでございます。これが独学大全、その懐の深さでございます。

ではここまでを踏まえた上で、この本の目次をご覧ください。

初回はこう読む。それで十分なのでございます

こちらが第1部の目次でございます。
お嬢様。実際に本を読む際、初回から読むべきなのはどの部分だと思われますでしょうか?

なに、対話部分? 簡単そうだから?

お嬢様……

なんと本日初めての正解でございます! 私嬉しくてもう、涙がちょちょ切れるほど嬉しゅうございますよ。
やはりお嬢様は単なるどアホではなかったのでございますね。私は信じておりました。

ここで少し補足させていただきますと、初回であれば対話部分は熟読し、技法部分は完全に飛ばしてしまうのではなく、見出しだけ目に留めながらページをめくる、いわゆる「見出し読み」がおすすめでございます。
一体これは何をしているのか? 軽くご説明いたしましょう。

対話部分は熟読

対話部分は熟読していただくのが良いかと存じます。この対話部分、単なるコミカルな導入ではございません。
例えば第1章の対話では、独学を挫折しそうになった無知くんが親父さんに教えを請うところから始まります。

無知くん:「たのもう、たのもう!」

親父さん:「朝から騒々しい。今日は何の用だ?」

無知くん:「いきなりですが心が折れました。もう独学を続けられそうにありません。なんとかしてください」

お分かりになりましたでしょうか? もう少し要点を分かりやすくするために、この対話をブログ風に言い換えてみましょう。

「独学を頑張りたいのに続けられない、心が折れてしまうってこと、ありますよね?」

対話部分はこの章がどんな悩みを持つ人を対象に書かれているか、どんな問題を解決するかを示す、言わば『章の序文』でございます。

お嬢様。対話部分は読むだけではもったいない。ぜひ読みながら、ご自身が共感できるかをチェックしながらお読みください。
もし熟読しても無知くんに共感できないのであれば、その章は今のお嬢様には不要かと存じます。

技法部分は見出し読み

その章を読むべきと判断されたなら次へ進みましょう。技法の紹介部分でございます。

技法ごとに手順が見出しとして掲載されておりますので、初回は見出しのみチェックし、サッとお進みください。それで十分でございます。

その理由は、見出しを見るだけでその技法がどういったものであるか、大まかには把握できるからでございます。実際に第1の技法の見出しを並べてご覧に入れましょう。

  1. 学びのきっかけとなった出来事を探す
  2. その出来事の影響範囲をマッピングする
  3. 影響の評価を行う
  4. 評価に理由付けをする
  5. ①~④を必要なだけ繰り返す

細かい部分で不明な点はあるかと存じます。しかしこの技法の大まかな手順は、見出しを見るだけで分かるのでございます。

初回は大雑把にどんな悩みをどう解決するのか。ここに焦点を絞ってザックリと内容を理解する。これで十分でございましょう。
この方法であればお嬢様のような読書が苦手な方でも、第1章を読み終えるのにそう時間はかからないはずでございます。

「読む」には準備が必要であることを、お忘れなきよう

さてお嬢様、そろそろランチの時間が近づいてまいりました。その前にもう一度、我々がやってきた作業を振り返ることにいたしましょう。

  1. 序文を読む (思想の把握と本の選別)
  2. 目次を読む (全体像の把握と部の選別)
  3. 対話部分を読む (テーマの把握と章の選別)
  4. 技法の手順を見出し読み (手順の把握と技法の選別)
  5. 1~4の作業後、必要な部分を熟読する

大まかな把握と選別。そう…今まで我々がしてきたことは、全てこの2つの言葉に集約されるのでございます。
まるで料理の仕込みのように、本から余計なものを取り除き、食べやすい大きさに切ってから調理する。これぞ実用書の読み方、その基礎となる考え方でございます。

これまで10ページしか読めずに挫折していたお嬢様が、第1部の全体をわずかな時間で走破できた。これは小さな、しかし立派な成功体験でございます。
この成功体験を積み重ねることで、読書はより楽しいものへと変わるでしょう。

さて、私はそろそろランチの準備をせねばなりません。最後に、私の好きな言葉をひとつお送りして終了といたします。

すべての書を完璧に読む必要はない。心にわき起こる疑問に答えられるように読まねばならない。

(レフ・トルストイ)

お嬢様。「読む」行為には準備が必要であること、くれぐれもお忘れなきよう。

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